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「ひとふでがき」作家・さかもと先生をおすすめしたい

“ひとふでがき”と私

「もしよかったら、うしろ、かきましょうか?」 会って間もない人にこう言われて、驚かない人はいないだろう。梅雨前線が人の心まで覆っていた7月13日の夕刻。大阪の革製品工房waji(ワジ)が神宮前の裏参道ガーデンで行った展示会で、「ひとふでがき」アーティストのさかもとみなこ氏を紹介された。

昨夜から「締め切り」という文字が土砂降りだった脳は、瞬時に「かく」→「掻く」→「うしろを掻く」→「背中を掻く!?」と無言の連想ゲームを始めた。しかし目の前にいるこの人は、右手にペンを左手にハガキを握って、ニコニコしている。ということは……「かく」は→「描く」で、正解は「絵を描く」だ! と一拍おいてから理解したのがすごく恥ずかしかった。

「ひとふでがき」とは、ペンを紙に置いてから最後まで、離さず一気に描き上げる手法。同じ道を2回通ることもしない。また「点」は、紙からペンを離さないと成立しないから、ひとふでがきではすべて”繋がった線”で描き切る。始めるまえから「制限」が立ちはだかるのだから、容易な手法とはとても思えない。

 

“ひとふでがき”とwaji

さてまず、革製品工房wajiとさかもと氏の関係について。去る6月7日に放映された通販番組『ショップチャンネル』において、革を極めたwajiとひとふでがきを極めたさかもと氏がコラボした製品を販売。「ひとふでがき」を施したトートバッグと、waji特製のヌメ革を使った額縁に収めたアート作品(原画2種類)には申し込みが殺到した。

そのコラボ制作でwaji製品のデザインを研究し尽くした氏、今回の展示会には「究極のシザーケース」や「美容師エプロン」をはじめ、出展されたwaji製品の“解説者”として参戦。職人技がみなぎる製品に琴線をくすぐられて来店した美容師たちに、シザーポケットやダッカールベルトなど、ひとつひとつのパーツまでていねいに説明していた。

 

「もしよかったら、うしろ、かきましょうか?」

さて、氏から「ひとふでがき」アーティストであることを告げられたのは、接客がひと段落し「さあ、お茶でも」と腰を下ろして間もなくのこと。その直後に「もしよかったら、後ろ、描きましょうか?」と言われたのだ。なぜ「後ろ」なのかというと、出逢ったひとの「後ろ姿」を一筆描きで捉えるのが大得意だそうで、その名もズバリ「似背絵」。プロが描くのに「に・せ・え」とは面白い! と、厚かましくもさっさと後ろを向き待つこと30秒くらい。完成したのがコレだ。

似背絵といて書いて「に・せ・え」

「ここからはじめてここでおわりました!」と説明されて、やっと自分が置かれた状況が見えた。そうだ! これは「ひ・と・ふ・で・が・き」なのだ。しかし、描き始める前に「ヤー」と気合を入れるワケでも、「ハッ」と息を止めるワケでもない。太さ0.1ミリのペンをさらさら走らせながら、「10年間毎日欠かさず一点は描いているんですよー」とのんきに話しかけてくる。もちろん途中でペンを止めることはないので、驚くほどササッと描きあがる。この日連れていた某美容メーカーの広報さんが「正面から見るよりも似ている!」とブチかますと、“あなたもどうぞ!”と後ろを向かせまた描き始める。仕上がった2枚の似背絵と互いの後ろ姿を見比べて思わず「おお!」と、テノールとソプラノでユニゾンしてしまった。

 

“ひとふでがき”作家の正体に、髪書房ナンバーワン営業マンがせまる

これはぜひボブログ読者のみなさまにも紹介せねば! と、急遽その場で氏を確保。“突撃!となりのひとふでがき作家インタビュー”を敢行した。

 

BOB(以下B):小さなころから絵を「生業(なりわい)」にしようと思っていたのですか?
さかもと(以下):絵を描くのは好きでしたが、趣味と仕事は別だと思っていました。大学では心理学を専攻していたのですが、だんだんものづくりへの想いが募るようになり、卒業してからデザインの専門学校へ行きました。

 

B:ものづくりで影響を受けた人は?
:母ですね。絵を描いたり、機織りや縫物が得意な人で「欲しいものは買わずに作った方が面白いから」と、幼いころからよく一緒にやっていました。

 

B:「ひとふでがき」をはじめたきっかけは?
:これといってデザインの特技がなかったことが、結果として「ひとふでがき」を始めるきっかけになったと思いますね。絵を描くのが好きだったとはいえ、デッサンを勉強していなかったので、専門学校では周りのレベルとクオリティの高さにまず圧倒されました。担当してくれた先生から「毎日欠かさず描き続けてごらん。そのうち形がとれるようになるから」と言われたのが2011年のことで、以来10年間描き続けています。ある日授業中に、その先生の顔をひとふでがきで落書きしたら、それまで頭の中に「点」で散在していたことが、一気に「線」で繋がったように感じて。ああ自分にはこれが向いているなと思って続けています。

 

B:「ひとふでがき」の魅力は?
:この技法でしか表現できない作品ですね。始めたところから最終点までが完全に繋がっている意味合いと、「制限」の中で表現する可能性がとても魅力です。「ひとふでがき」がきっかけでご縁があるたびに、「繋がり」の意味をより強く感じるようになりました。

 

B:「靴下デサイン」との因果関係を教えて下さい!
:さきほどお話ししたデザインの専門学校を卒業して、最初に付いた仕事がこども服ブランドのデザイナーでした。そこで赤ちゃんから大人サイズまでの「靴下」を担当したのがきっかけです。小さな面積の中で制約もありながらデサインするのがとても楽しかったので、いつか自分でブランドを持ちたい! と思うようになりました。私がつくる靴下は「アソビゴコロ」がコンセプトなんです。足裏からつま先まで、靴を履いたら見えなくなってしまうところにも、こっそりアソビのデザインを入れています。この領域を極めようと「靴下ソムリエ」の公式資格も取りました。製造はご縁で繋がった奈良と長野の工場さんにお願いして、販売はハンドメイド製品を主に扱っている『minnne』という販売サイトか、イベント出展がメインです。お陰様で新作を出すと売り切れることもあり、とてもありがたいです!

 

:ひとふでがき「以外」の手法で作品を作ることはあるのですか?
:あります。「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」という、横浜美術館開館30周年記念の公式クッズをデザインしましたが、これはひとふでがきではありません。最初「靴下プロジェクト」として始まったのですが、途中で主催者との紆余曲折を経まして(笑)。靴下で予定していた工場でそのまま生産できる「ボトルカバー」に変更したら、無事採用されて製造した限定300点が完売しましたね。

 

さて、突撃インタビューはひと段落し、注いでもらったウーロン茶を牛飲しながらもう少しお話を伺った。「絵本作家になるのが夢でした(いままでに2冊出版)。子どもが夢中になるのはどんな絵本かを知りたくて保育士の資格を取ったり、ものづくりと並行して幼児の預かり保育や幼児アート教室の講師を、5年くらいやったりもしましたね」

 

“もしよかったら、うしろ、かきましょうか?”で始まった今回のさかもと氏との出会い。「似背絵」のお礼を真正面から述べて展示会を後にしながら、“そういえば最近自分で何かかいただろうか…”と一瞬考えてみた。結局、冷や汗と恥くらいしか思い当たらなかったので、今日の出会いをきっかけに自分が自慢できそうな得意技は何かを考えてみようと思った次第である。

 

さかもと氏の「ひとふでがき」や「靴下」などたくさんの作品を、ご自身の目でご覧ください!

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