定番のあのヘアスタイルはどう生まれたの? へスタイルのバックグラウンドを知ることで生まれる新しい発想もきっとある。ニューヨークのFashion Weekやミラ・ジョヴォヴィッチなどのヘアカットなどニューヨークで活躍し、2018年に帰国したKatsumi Matsuoさん執筆の「ヘアスタイルの歴史」。2回目の今回は「ボブ」にクローズアップ!
ボブ=女性たちの自立のシンボル
近年ジェンダーレスという言葉をよく耳にする機会が増えてきました。「女性らしさ」「男性らしさ」の線引きをなくそうとする風潮であり、日本でも社会全体でジェンダーレスを理解するために動き出しています。
もちろんヘア業界でもスタイル用語としてよく使われ、ボブスタイルはジェンダーレススタイルの代表的なスタイルと言えるのではないでしょうか。
1920年代女性は、こうあるべきという以前までの女性に求められてきた社会的、性的規範を軽視した女性たちによるフラッパーファッション、膝丈の短いスカート、ジャズ音楽などを好んで、濃いメイクアップで強い酒を飲み、性交渉、喫煙、ドライブを積極的に楽しむというスタイルがアメリカからヨーロッパまで広まりました。
G・W・パープスト監督の『パンドラの箱』と『淪落の女の日記』でも知られるルイーズ・ブルックスのボブスタイルは時代を象徴するシンボルとなり、日本でも大正デモクラシーの自由な風に乗りモダンガール(モガ)と呼ばれ広まっていきました。
その中のヘアスタイルがボブであり、ボブスタイルは女性達の意思の表明でした。古い社会の価値観を一新し、20年代の女性達が強い自立への道に一歩を踏み出すシンボルスタイルだったのです。
ヘアスタイルは他者表現
映画におけるボブスタイルのアイコンは、やはり1994年『パルプ・フィクション』で、ミア・ウォレスを演じるユマ・サーマン、『レオン』でマチルダ・ランドーを演じるナタリー・ポートマン、1997年『フィフス・エレメント』リー・ルーを演じるミラ・ジョヴォウィッチ。
芸術家の草間彌生、アメリカ版「VOGUE」誌の編集長アナ・ウィンター、COMME des GARÇONSの川久保玲氏など、ボブスタイルは彼女たちのシグネチャースタイル。やはり20年代同様、ボブスタイルは美しさと強さを兼ね備えた人によく似合うスタイルだと感じます。
そしてボブスタイルで欠かせないのが60年代のヴィダルサスーンの「THE SHAPE」「NANCY KWAN」「THE FIVE POINT」「THE GEOMETRIC」「A-LINE BOB」「THE ISADORA」。70年代に入り、川島文夫氏の「BOX BOB」などさまざまなスタイルを生み出していきました。
その中でも1966年に発表された「THE ASYMMETRIC GEORETRIC」は、事故で片目を失ったお客さまのために考案されたスタイル。そのアイデアを原型にして、モデルのペギー・モファットのヘアをカットしてできた作品です。
このスタイルの誕生秘話を聞いた時、ヘアを成形する知識や技術はもちろん、相手の感情やつくって欲しいことを聞き出すコミュニケーション能力や理解力が最も大切だということ。そしてヘアスタイルは相手のためにつくるもので、自己表現ではなく他者表現なのだということを再認識したことを覚えています。
このように流行している出来事をさまざまな視点から過去に遡ることで、自分のヘアデザインをブラッシュアップできるきっかけや新しいヒントに出会えることが、歴史を知るおもしろさだと思います。
テキスト:松尾克己
Profile
松尾克己/1978年生まれ、福岡県出身。1998年、山野美容専門学校卒業。都内サロン勤務後、2006年ニューヨークへ渡米。2009年、Interview Magazineにてヘアスタイリスト・デビュー後、Art Department所属。New York Fashion Weekでは、キー・ヘアスタイリストを務め、Met GalaやTony Awardsなど、レッドカーペットでのセレブリティのヘアスタイリングを多数手がける。アメリカを拠点に雑誌Vogue, Elle, Harpers Bazaarや広告等を中心に活動。またヘアートレンド・アドバイザーとして、大手企業へヘアープロダクトやオーガニック製品事情を提供。2018年現在、日本に帰国。
Portfolio:http://beautydirection.net/artistlist/katsumi-matsuo/
Instagram : https://www.instagram.com/katsumimatsuo/
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