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営業担当easymanの音楽食堂~3つの『明日に架ける橋』

月刊BOB広告営業担当、音楽を愛する元美容師の通称easyman。前回の2千字インタヴューがなぜか好評で味を占めた編集部は、「とりあえず何か書いてください」と丸投げのオーダーをした。煩雑な日々に荒み切ったそんな心が、洗い流される音楽に出会ってしまうとも知らずに。

天国に音楽があるとしたら―ロバータ・フラックver.

BOB編集部(以下B):ヘーイ!ワッツアーップ!!

easyman(以下e):なんだいきなり、なれなれしいな……。今日はいったい何の用だ!?

B:早速ですけど、何かいい音楽ありませんか?心が洗われるような名曲とか。

e:洗わなきゃならないほど汚れた心なんだな……可哀想に。そういえば最近“癒してあげましょうね”的な音楽の押しつけが多くて、ちょっと辟易していたのだが、時々棚から引っ張り出して聴いていたのは「明日に掛ける橋(原題:bridge over troubled water))」だな。

 

Simon & Garfunkel ”Bridge Over Troubled Water”

 

B:あの有名な、サイモン&ガーファンクル(以下S&G)の!?

e:そう。曲も詞もポール・サイモン(Paul Simon)の作品だが、私が聴いていたのはS&Gじゃなくて、ロバータ・フラックのアルバム“クヮイエット・ファイア”に収録されているバージョンだよ。

 

Roberta Flack “Quiet Fire”

 

B:きゃーっ!アフロヘアのアートワーク、かっちょいー!ブラックミュージックの方なんですね。

e:そう。アメリカ生まれのシンガー兼ピアニストで、このアルバムは1971年に出た3枚目。彼女の「明日に~」を聴いたエルトン・ジョンが“親愛なるロバータ。僕は今日まで、こんなに美しい音楽を聞いたことがなかった”と手紙を書いたそうだ。

B:ロバータさんの「明日に~」を、ひとことで言い表すとしたら?

e:うーむ・・・「とろける」かな。もし天国に音楽があるとしたら、きっとこんな感じだろう。編曲はとても簡素で、彼女自身のピアノと唄、四本のチェロと、ニューアーク少年合唱団(The Newark Boys Chorus)のコーラスだけ。編曲はジャズ畑のエウミール・デオダートで、コーラスにはシシー・ヒューストンも加わっているよ。

B:ヒューストンって・・・もしかして、ホイットニー・ヒューストンと関係あります?

e:お母さんだ。そういえば志村けん師匠の古いギャグに「本当に?ほんとーにー!?ホイットニーヒューストン!」ってのがあったなー。 そうそう、志村けんさんといえばもうひとつ・・・

朴訥に心をつかむ―ジョニー・キャッシュver.

B:(完全に無視して)ほかに「明日に~」でお薦めはあります?

e:もうひとり選ぶとすれば、ジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)だ。既に故人だが、アメリカでは“超ド級”の人気を誇るカントリーシンガーで、彼が亡くなる直前に録音したアルバム“American Ⅳ(フォー)/The Man Comes Around”で聴ける「明日に~」は、誰にも真似が出来ない「いぶし銀」のようなバージョンだと思う。2005年に“ウォーク・ザ・ライン/君につづく道”というキャッシュの伝記映画(主演ホアキン・フェニックス)が話題になったな。

 

Johnny Cash “American Ⅳ:The Man Comes Around”

 

B:キャッシュさんの「明日に~」を、ひとことで言い表すとしたら?

e:ズバリ、「朴訥(ぼくとつ)」。あまりにシンプルで、部屋で独りただ弾き語っているのを聴いているような錯覚に陥るよ。唄とギター、ピアノとメロトロン(Beatlesのストロベリー・フィールズ・フォーエバーのイントロで有名な鍵盤楽器)、あとはフィオナ・アップルのサイドボーカルだけ。キャッシュの唄を初めて聴いて“巧い(うまい)”と思う人はまずいないだろうが、心の琴線を鷲掴みにされるような力強さは、凄すぎて異様なくらいだ。

焼き鳥は塩が好き

B:最後に、この「明日に掛ける橋」という曲を初めて聴く人に、伝えたいことは?

e:どれだけ多くの歌手がカバーしたか判らないくらいの有名曲だけど、曲の素晴らしさを表現し切ったバージョンは、とても少ないと思う。和訳した歌詞よりも「英語の原詞」を繰り返し読んでみることをお薦めするね。それと、音楽をストリーミングやダウンロードで聴く人たちは、その作品の作曲・作詞・プロデューサーが誰なのか?どこのスタジオで誰によって録音されたのか?誰が編曲して演奏したのは誰なのかを、探りながら聴いてみるといい。ミュージャンに一流・二流・三流がいるように、良質のリスナーになるためには「学習」が必要だよ。音楽を「趣味です」という人がいるけど、私は「教養」だと思っているんだ。あ、焼き鳥の塩盛りと茶豆、頼んでもいいかな?

 

【編集者あとがき】
浅草の大衆居酒屋で待ち合わせ、ホッピーを舐めながら進んだインタビュー。「レコードやCDは何枚くらい持っているのか?」と質問したところ、「ロッキングオンの渋谷陽一さんが、音楽評論家として初めてレッドツェッペリンのレコード解説を書いた時、レコードは30枚くらいしか持っていなかった・・・と本人がラジオで話していたよ。つまり、レコードやCDをたくさん持っている人=音楽に詳しい人じゃないんだよね」。“輸入盤で買って気に入ったアルバムを、なぜわざわざ国内盤で買い直すのか?”の問いには、「国内盤は解説やクレジットや歌詞の和訳など、懇切丁寧な資料が豊富だから」と答えた。酔いが回って食べこぼしが顕著になったころ“もし音楽が聴けなくなったら、どうしますか?”と尋ねると、「レコードやCDやラジオ、音楽の再生装置が無くなったら・・・ってことかい?いつも頭の中で音楽が鳴っているからまったく困らないと思う。“聞こえない歌の方が、はるかに美しい”って言ったのは、なんて作家だっけなぁ・・・」と即答だった。「老眼だからさぁ」とか「白内障だからねぇ」と、やたら顔を近づけようとしたが、ぜったいに嘘だ。

 

easymanの音楽食堂“おいしい音楽、あります!”次回をお楽しみに。

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