月刊BOB6月号「時間単価を意識する 1分・5分・15分・30分 時間別ヘアアレンジ」では、23体に及ぶヘアアレンジスタイルのすべてをプロセス動画でお伝えした。ネットのトレンドにも敏感な美容師の方々ならご存知の通り、この大Youtuber時代、動画の要となるのがBGMだ。無責任にも編集者は、ウクレレが弾けると聞いたことがあるだけの、月刊BOB広告営業部の人材にBGM制作の白羽の矢を立てた。彼が隠し持った才能に気付かないまま……弊誌営業部easymanの音楽が、ヘアアレンジをこれほど盛り立てる理由を紐解くインタヴュー。
プリンスメロンは家畜のエサ用の果物で人間が食えるような代物じゃなかったし、函館の女は難易度が高かった。それから親父をだましてギターを手にした
●生まれはどちらなんですか。
「“北海道のミシシッピー”と呼ばれる、胆振西部の小さな町に生まれ育った。とうきびとプリンスメロンが美味いので有名な土地だよ」
●プリンスメロン?
「ああ。もともとは家畜のエサ用の果物で、人間が食えるような代物じゃなかった。町の外れに有珠山と昭和新山というでっかい活火山があってね。幾たびの噴火で火山灰が何層にも降り積もって畑を肥沃にしたんだな。そこで獲れたプリンスメロンがとても甘い!と南部一帯で評判になって以来、町の自慢のソウルフードになったんだよ」
●音楽は何歳から始めたんですか?
「歌は6歳から。 “函館の女”のレコードに合わせて北島三郎さんの難しいフレージングを真似ていた。毎日学校の行き帰りに大声で練習していたよ。12歳の時、学年テストでいい成績と取ったご褒美にと親父がギターを買ってくれたんだ。」
●意外と優等生だった?
「いや、本当の成績は11番だったのに、目が悪かった親父がそれを「1」番と勘違いしてね。“あの時ギターを買い与えていなければ…”と、死ぬまでボヤいていたな。それから俺の生活は音楽漬けで、町の暴れ者たちが『弾け!歌え!』と言えば、演歌でもフォークでもロックでも、何でも歌って演奏したよ。15歳の時、たまたま聞いていたラジオからYAMAHA主催の音楽コンテスト(編集部注:ヤマハポピュラーソングコンテスト、いわゆるポプコン)が流れてきたんだ。九州は久留米のチェッカーズというバンドの演奏を聞いた時に、“ふん、これなら俺の方が上手くできるぜ”と思ってね。翌年に自分のバンドを組んで地区大会に出たら、あっさり優勝しちまった。さらに次の年に、自分で書いたオリジナル曲で出たらまた優勝したんだ」
●音楽では優等生だったと。
「学校ではダメだった。ピアニカって全員やるだろう、でも出来なかったね。ピアノも足踏みオルガンもまったく弾けない。小学校の音楽教師が嫌なヤツでね。音楽の時間はサボってばかりいたから、今でも鍵盤楽器と楽譜の読み書きはまったく出来ないよ」
困ってもすぐ相談先を探せたから、そりゃあ便利だったよ。娘が迷い込んできて、「パピー、あたいにも何ンかやらして」って時なんかにはさ
●ピアノも楽譜もダメで、どうやって作曲・編曲するんですか?
「(天井を見上げて)上から降りてくるんだよ。まあ、gift=贈り物ってやつだな。」
●それでは今回、月刊BOB6月号の動画のために作った曲について教えて下さい。
「4小節くらい書いたまま、何十年も放ったらかしてあった曲を完成させたんだ。歌のない「インスト」を作曲したのは、生まれて初めてだった。ウクレレを弾いたのは、ハワイ出身のShake Tamabukuroだ。“俺はジェイク・シマブクロの親戚だ”って言ってたけど、あれは絶対嘘だな。フェンダーベースはPaul Makicartneyで、やたらと指をパチパチ鳴らす変なヤツだったよ。パーカッションは俺だ。ドラム演奏用のワイヤーブラシでイエローページを叩いたんだ。困ってもすぐ相談先を探せたから、そりゃあ便利だったよ。トゥワンギーなギターは、マカロニウエスタンの映画音楽が得意なEnnio MocCorieaneだ。4コーラス目のファンキーなギターソロを弾いたのは日本人で、高々正義というヤツで、本天沼児童館でのライブが急に中止になって暇だというから雇った。“TAKANAKAにギターを教えたのは俺だ”と言っていたが、まさか知り合いのはずがない。途中に出てくる鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)のソロは、風子だよ。」
テナーウクレレ/Martin T1 Uke■Shake Tamabukuro愛用のオールマホガニー単板のテナーウク
コンサートウクレレ/Kanile’a(カニレア) K-1 C■オールハワアイアンコア単板のウクレレは、アクセントの拍だけに ハープ(竪琴)のような音を奏でるために使用された。ハーブ・オオタさんでお馴染の「Low-G仕様」
Tokai(東海楽器)/Breezy sound Telecaster■バスウッドボディー/メイプル指板のテリーで、
Bacchus(バッカス) WOODLINE ALD-4■・アルダーボディにローズウッド指板でマッチングヘッドのJazz BassはFenderよりもひと周り小さく、腰痛持ちのPaul を歓喜させた。弦はラベラのステンレス製ミディアムゲージを使用
●ふうこ?著名な日本のミュージシャンですか?
「いや、ぜんぜん。俺の末の娘だ。レコーディング中にピアニカを持ってスタジオに入ってきて、『パピー、あたいにもなんかやらせてよ』って言うから、待たせておいたピアニストをクビにして娘に吹かせたんだ。イエローページのお告げさ」
●あのピアニカの演奏が、緊張と緩和で言えば緩和になっていて。
「まさか、冗談だろ⁉ 依頼主が “6分くらいの曲に仕上げろ” ってムチャなことを言うから、腹いせに娘のピアニカを録音してやっただけさ。」
鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)/YAMAHA■easymanのdaughterが、
●それでは最後に、曲の題名“Tomorrow is another day”がどんな意味か教えて下さい。
「マーガレット・ミッチェルの小説『風と共に去りぬ』を読んだことがあるかい?主人公のスカーレット・オハラの最後のセリフがこれなんだ。直訳すると “明日はまた別の日” だけど、「きっとなんとかなる!」「ぜったいに大丈夫!」という意味なんだ。月刊BOBを出している髪書房の人から『美容室や美容師さんを応援するような、明るい曲を作って欲しい!』と頼まれた時、この曲の題名はこれしかないと思ったんだ」
[…] 月刊BOB広告営業担当、音楽を愛する元美容師の通称easyman。前回の2千字インタヴューがなぜか好評で味を占めた編集部は、「とりあえず何か書いてください」と丸投げのオーダーをした。煩雑な日々に荒み切ったそんな心が、洗い流される音楽に出会ってしまうとも知らずに。 […]