都内の有名サロンを経て2016年に渡米し、現在はNYの日系サロンthreedegreessalonで働く穂高律子さん。
NY都市封鎖によるサロン営業中止前後の状況や、経営存続のために実際に行った対策、現在のご自身の生活などについて聞きました。
東京都内でも、1カ月程度の営業自粛を発表するサロンが増えてきました。この動きが今後広がっていく可能性も高いです。先行き不透明な状況の中、全国の美容師さんに知っておいていただきたい情報が盛りだくさんです!
(4月6日取材時点の情報です)
※以下、写真・動画はすべて穂高さん提供
3/21に美容室利用停止命令!NYの状況
緊急事態宣言→営業停止→ロックダウンまでの流れ
3月1日 ニューヨーク州初の感染者確認
3月7日 ニューヨーク州知事が緊急事態宣言
3月13日 大規模の集会禁止、ブロードウェイ閉鎖
3月16日 バーやクラブ、映画館といった施設が閉店。また飲食店もテイクアウトとデリバリーのみに。
学校や図書館、あらゆるお店が順次閉店。会社員は在宅勤務が増える
3月21日 国から美容室利用停止命令、営業停止(3/21以前に自らの判断で閉めていたサロンも多かった)
3月22日 企業に全従業員の出勤禁止を命じ、市民には自宅待機を4月19日まで要請する行政命令(いわゆるロックダウン、外出制限)
現在は外出禁止が4月30日までに延長。感染のピークが4月7日~21日だと言われている。
ニューヨークのロックダウンの特徴。罰金は?
ニューヨークの外出禁止は、「企業に対する出勤禁止の義務付け」は罰則があり、市民に対しては要請なので罰則がない。
生活に不可欠な施設は営業しており、買い物や散歩なども可能だが、一定の距離を保たないと罰金という市長令が出ている。
21日に穂高さんがSOHOを撮影した動画。東京の表参道・青山のような場所だが、ほとんど人がいない!
営業停止まで実施していた感染対応策は?
基本は日本のサロンと同様
- お客さんの人数を制限し、予約が重ならないようにする
- ハンドサニタイザー(消毒剤・殺菌剤)の常備
- 換気(ただしNYは治安悪化により常にロックをしていないと危険を感じたため、常時は難しかった)
ぜひお客様にも協力を依頼したい!
- 来店時の手洗い
- お客様のマスク着用
- 出勤スタッフは交代にして在店人数を減らし、予約変更を(アメリカの企業でも実施された対策)
アメリカは美容師とお客さまが対等な立場なので、美容師自身の身を守るためにも手洗いやマスクを必ずお願いしていました。保菌はお互いにあり得ます。
日本はやっぱり“お客さまは神様”の文化がありますよね。私もサロンの同期と話をしていて気付き、日本の美容師さんからは言いづらいだろうと思って自分のインスタのストーリーで日本にいらっしゃるフォロワーさん向けにも呼びかけました。
ただ、実際にマスクをつけて営業したのは3/20辺りだけ。アメリカだとマスク=病気の人、という認識が強く、今回さらにマスクをつけ始めたのはアジア人が早かったので、アジア人差別にもつながってしまったんです。
さすがに今は空気が変わって皆さんマスクをつけていますが、最初はマスクをしていて殴られるアジア人がいたり、今度つけていなくて殴られた人がいたり、新型コロナに対するストレスが迷子になっていると感じました。
新型コロナウィルスに負けない!NY美容界のSNS活用術
youtube,IGTVを活用
お客さまの役に立つ動画の発信やライブ配信、ストーリー投稿が増加。
zoomでの美容師向け無料オンラインレッスン
ウェブ会議ツールのzoomを使った、ヘアプロダクトブランドと数名のスタイリストによる美容師向け無料オンラインレッスンが始まった。担当者と時間の告知があり、オンライン予約が可能。
- アイロンを使った髪の巻き方
- 前髪の切り方
- 時間があるからこそできる、トリートメントマスクhowto
- 美容師向けのスタイリング、フィニッシュワーク技術の提供 など
役立つものが歓迎される雰囲気
NYの美容室・異業種からも学ぶ、経営難の回避策
★お店が持続できるよう、Fundサイト(特に『GoFundMe』アプリが人気)に登録してお客さまに募金を呼びかけ
★お客さまのe-mailアドレスに、挨拶・ギフトカードの買い方の説明・fundのリンクを載せて送信
→オンライン上でお客さまにギフトカード(※1)を購入してもらう
→メールに“デジタルカード”として添付して発行
※1:次の施術料金分を事前購入してもらう
▼実際のギフトカード購入ページ
(https://threedegreesnyc.com/gift-certificate-request-form)
▼実際のfundページ
(https://www.gofundme.com/f/three-degrees-salon-fund)
▼実際のメール全文
「アメリカは“donate”(寄付)文化なので、どの美容室もすぐにサイトに登録して、お客さまに呼びかけていました。
私は日本のサロンもやるべきだと思います。1人のお客さまから、10万円をdonateされてるサロンもありました。移民として、お客さまからのお店とスタッフの存続への愛を感じて嬉しくなりましたね。
『GoFundMe』というアプリでみんなやっているのですが、これは美容室だけに限らず、よく行くレストランや医療へなど全ての職業がやっていて、お互い支えあおうという感じでdonateしています」
「私たちのサロンはギフトカードもやっています。
次の施術分を先に払ってもらうことで一時的な売り上げとなり、来月のわたしたちの給料のサポートにつなげています。営業が再開した月はちょっと苦しいかもしれませんが、今現在の自分たちの生活・お店を回していくという意味で、これはとても助かります。
わたしも2週間で60万円分くらいのギフトカードを皆様に買っていただきました。そこで大事だったことがemailアドレスを以前から聞いていたことです。
日本だとどのツールがいいのかわかりませんがアメリカはgmail文化なので、そこに、挨拶・fundのリンク・ギフトカードの買い方の説明を載せて、送信しました。
日本の美容師さんでgmailへの馴染みがない方も多いと思うのですが、アメリカでは働いているお客さまはgmailを活用されていることが多いので、そこでのやり取りは大事かなと思います。私も個人のgmail同士で予約のやりとりしている方がたくさんいたので、そこへ上記のようなメールを送らせてもらいました。
お金を催促しているようなメールの気がしてしまい送りづらかったのですが、お店からのお願いだとお知らせ感あり、送りやすかったです。
メールアドレスを知らないお客さまでも、自ら次の施術分を先に払わせてもらえませんか? とメールをくださる人や、わざわざ電話をくれて、お金に困ってない? 困ってたら助けるから言いなさいねと言ってくれる方がいたり、本当に優しい方が多いです。
アメリカは『Venmo』という日本の『LINEpay』のようなアプリで誰とでもお金を簡単にやりとりできます。大変だと思うから使ってねと、突然お客さまがお金をVenmoしてくれたという美容師の友人もいました。日本だったら、こんなことってあまりないので、驚かされます」
ロックダウン中のお客さまへのフォローや実際の相談事
心に残るアドバイスを。個別メッセージでのフォローアップも有効
ヘアカラーについては、帽子をかぶれば大丈夫! と事前にアドバイス。セルフカラーはどの美容師もおすすめしていない。
白髪染めのお客さまには、もし自分でやりたくなったら、あなたのセルフカラー用の商品(カラー番号)を探すのでメールをしてくださいと伝えた。
この前お客さまから、『この状況が終わったら、ピンクにしようと思う!楽しみ!』みたいなメールがきて嬉しくなりました。美容師として今できることは、会えないからこそ、忘れられないように何かしらで発信するのは大切だなと思います
↓実際のお客さま、Katieからのメッセージ。“あなたが私の髪に「crazy things」をできるのが待ちきれない!”
ニューヨーカーが支持する、crazy thingsな穂高さんのヘアカラーはこんな感じ!
美容室や美容師へのアメリカ政府からの補助事情
お詫び)当初の記事内容に間違いがありました。4/16に修正しました。失礼いたしました。
・会社は無利子のローンを組み賃料を補う
(従業員5名以下の小さな会社の場合は、売り上げトータル金額が前年度と比較して25%以上下がった場合、給料の40%を保障。※何か月分の補助かは不明)
・賃料の支払いを3カ月間延ばせる
・職業問わず、大人1人につき$1200(約13万円)、17歳以下の子供1人あたり$500(約5万5000円)を支給。※ただし年収750万以下の場合。世帯は世帯年収$150000(約1600万円)以下なら対象。
・ガス料金の支払い遅延の場合の追加料金免除 など
▲上記はすべて穂高さんからの情報です。
こうした政策はすぐに発表されたのですが、人が多すぎて申請するのにとにかく時間がかかります。
また、上記なような情報も1人だと分からないものが多く、SNSで詳しく載せてくれている人の情報をみたり、同業の人達に聞いた情報がすごく役にたちました
ロックダウン後の生活のリアル
やっぱりzoom飲み。そして夢を広げる時間
あとは、私は手が鈍らないようにカラーのturorial(教育)の動画レッスンを始めてみました。ニュースで目まぐるしく変わる情報をチェックして、料理したり、英語を見直そうと思い、オンラインのクラスをとったりしています。(befluentnyc[@befluentnyc、@befluenttokyo]は日本からも取れるのでぜひ!渡辺直美ちゃんも受けていました)
あと、わたしの旦那さんは雑誌や広告などの撮影でヘアをスタイリングするヘアスタイリストなので、撮影で使える巻き方やショーのバックステージで使えるテクニックを、やっとお互いの時間が合うので教えてもらっています。
スーパーに買い出し行ったり、散歩したり。他のみんなはヨガしたり、netflixを観たり、家でできることをしながらこの状況を楽しんでいる人が多いですね。いつも公園には人がたくさんいたのですが、最近ついに公園も封鎖になりました。
この生活は悪いことばかりではなく、何年ぶりかのお客さまや学生時代の友達などからも連絡をもらい、本当に人とのつながりの大切さと感謝を改めて確認できる機会になっています。
また、ヘアカラーの更なる学習や美容関係のオンラインセミナーをやってみようと思ったり、『zoom』などのオンラインサービスの便利さを知ったので日本とつながった仕事をしてみたいと思ったり。zineでもいいので自分の本をつくりたい! と夢を広げる時間になっています
ロックダウンを経験した穂高さんから、日本の美容師へのメッセージ
今のNYや街の雰囲気は震災の時の日本にすごく似ています。日本の方々は震災を経験している分強いと思うのですが、このコロナウィルスによる“美容室が営業できない”状況は、全く違う対策を取る必要があると思います。今回お伝えしたことは、私がアメリカにいて驚かされ納得させられたことも多く、参考になれば嬉しいです。
また、美容室を閉める直前の日にもサロンに来てくれたのは、ほとんど日本人の方でした。緊張感の違いなのか、苦境に慣れているからか、やはり美への意識の違いなのかわかりませんが、日本人の方にとって、美容室は特別な場所なのかもなと思いました。
でも、正直あのまま営業を続けていたら、感染が止まらなかったと思うので、営業停止というのは正しかったなとは思います。わたしたちのほうが倒れてしまうので。
日本でサポートがない中、お店を持たれている方やアシスタントがたくさんいるお店はどうなってしまうんだろうと心配ですが、それぞれができることを今は考えたほうがいいかなと思います。
もし、今日本で自分が経営者だったら、国にサポートやローンの申請を聞きにいったり、ギフトカードの準備、連絡先を確認する、材料をオーダーしないとか、時給制にするとか、考えるかなと思います。ロックダウンする前にできることはしておいてください。
そして、お客さまへのサポートのお願いは、意外と、お願いしていいと思います!! ロックダウン中、美容室は何も仕事ができないので。レストランはまだデリバリーとかあるので生きる道があると思うのですが、私たちは何も手段がありません。
また、東京や大阪など首都圏で働いている方は実家に帰る際は2週間自宅隔離してから帰ることをおススメします。自分が病原体保有者である可能性は必ずあり、親や家族などにうつってしまって後悔する、なんてことが世界中で起こっています。家族とのつながりが深いが故に、急いで帰ってしまった子供たちが移してしまって祖父母の方が亡くなってしまったという事態がたくさん起きていました。接客業である限り、自分もその1人だという認識を持った方がいいと思います。
辛いのは日本だけではなく世界中なので、支え合う、助け合う、思いやるということを大切に、行動したほうがいいと思います。大変な状況だと思いますが、ロックダウンの前にできることはやってみてください! お互い乗り切っていきましょう!
4/26追記/現在の状況……6月からの再開を予想
4/22にいただいた穂高さんからのリポートを追記します。
感染者数は減ったが、二次感染を警戒
アメリカは今80万人くらい、ニューヨークだけでも13万人の感染者が出ています。ただ、数字が大きいのは検査数が多いからというのもあるらしい。とにかく検査数を増やして感染拡大・縮小を数字で実証する、という方針のようです。
グラフで見ると、どんどん上がっていたものが平行~下がり始めてはいます。しかし二次感染を警戒しているので、生活に必要不可欠ではないものにGoサインがでるのはまだまだ先な雰囲気。その中でも美容室がどのくらいの必要度と判断されるのかはわかりません。ただ、NYUという大きな大学(ニューヨーク大学)の医師は、延びても5月いっぱいで、6月からはなにかしら再開させるだろうという発言をしていました。
様々な憶測が飛び交う中、6月のイベントはすべて中止の発表
少し前に出ていた憶測は、検査を受けて、それで大丈夫だったら、仕事をしていい、海外に行く仕事のために飛行機乗ってもいいとかいう新しい証明書みたいなものがでてくるかもしれないということ。今度はそのテストのキットの入手に人が殺到して、ロックダウンが解除されても自分が動きだすのには時間がかかってしまうのでは、と言われていました。
毎日状況やルールが変わるので、そのテストの話はまた聞かなくなりましたが
数字からすると、まだまだ厳しそうだなという感じ。6月のイベントは全部中止って発表が昨日(4/21)出ました。
日本と違って、ニューヨークって本当に汚いし、人々も色々守らないんです。そんな中でもみんななるべく家にいるのに、感染が収まらない。だから再開をプッシュできないんでしょうね。
トランプは再開させたがって、非難をあびてますが。
ビザは今後ますます厳しくなるかもしれない
ついにトランプがイミグレもストップするって言ったので、これからますますビザが厳しくなる気がします。
わたしはアーティストビザで在留しているのですが、ビザ更新時のリスクになる可能性を考えて、失業保険申請するの、やめておいたんです。回線がパンクしていたのもあったのですが、その間一応弁護士に確認してみたら、やはり「小さなリスクになる可能性がある」と。
アーティストビザの人でももちろん失業保険を申請してもらっている人もいるのですが……移民にとってもどんどん不利な状況になりそうだなと思っています。帰国してしまう人もたくさんでてきてますし。
ニューヨークは他の国に比べてもかなり異例、特例な都市なので、日本とはまた全然違うと思うのですが、力がある国なので、アメリカの動き方もみんな見つつ、動くところもありそうですよね
トランプと知事、州事の中でも色々考えが違うみたいです。
穂高さんのこれからの予定や、今のお客さまとのやり取り
カラーのやり方とかレシピをメールでやり取りしているのですが、突然、教えてくれた分と、お金を払ってくれる方がいたりと、ありがたいことにお客様に応援していただいています
5月になったら、ハウスコール(自宅に呼んでもらっての施術)を少しやろうかなと思っていたり、それから再開したときに慌てないように、材料の発注のタイミングやお店の予約の取り方とかをスタッフで話しあったりしています。
また延びたとしても、6月1日にはせめて再開してほしいのですが
ほたかりつこ/1982年7月25日生まれ。岩手県出身。日本美容専門学校卒業後、東京・表参道のDaBを経て2010年macaroni coastにオープニングスタッフとして参加。2016年に渡米し、現在は雑誌やブランドの撮影やブライダルのヘアメイク、ファッションウィークのバックステージにも参加しながら、Three Degrees Salonにてサロンワークを行う。
Instagram:@ritsuko725
この記事は2020年4月7日WEBZINEで掲載した記事に加筆修正したものです。
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