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踊るROCKに観るROCK、ちょっぴり大人のAOR(エーオーアール) 営業担当easymanの音楽食堂vol.2

前回までのあらすじ:〆切に追われるあまり心が荒みきったBOB編集部の丸投げから始まった、営業担当easymanの音楽食堂。連載1回目「心が洗われるような、いい音楽ありませんか?」はこちらから。今晩も浅草の大衆居酒屋で始まった、終わりなき音楽の飯に寄っていきませんか。

 

WikipediaならぬBOBpedia/AOR(エーオーアール)とは?

easyman(以下e):(くわえタバコで、無言のままハイボールを掻き回し続ける、悪態丸出しの編集者に向かって…)なんだ、呼び出しておいてその態度は。今日は音楽の話をするんじゃなかったのか!?

BOB(以下B):(ムスッとしたまま話し始める…)先週に音楽評論家さんの集まりを取材したんですけど、「AOR/エーオーアール」の意味がそれぞれ違っていたから、ぜんぜんまとめられないんですよー。

e:あー。確かにAORの意味は諸説あるな。まず「オリエンテッド(=oriented)」を辞書検索すると「〇〇志向の/〇〇向けの」と出てくる。で、AORって日本では 「アダルト・オリエンテッド・ロック (=大人向けのロック)」と認識されているけど、英/米でAORでは「アルバム・オリエンテッド・ロック(=アルバム指向のロック)」や「エアプレイ・オリエンテッド・ロック(=ラジオ放送向けのロック)」が一般的。一言でいうとしたら「おしゃれなロック」だろうな。それまで頭をぶんぶん振り回し、腰をフリフリして楽しんでいた人たちが、少し大人になって今度はじっくりと観賞するために好むロックと思っていいよ。実はAORを「アダルト~」と称するのは日本独自なの。それと、AORが指すのは「人/ミュージシャン」ではなく→「作品/アルバム」のことだと思っていいよ。

 

B:へー!「アダルト」なロックって、なんですか? エッチなやつなんですか?

e:エッチなロックか……逆に興味がわくなぁ。じゃあ要点を箇条書きにしてみようか? なるべくわかり易くしたいから、ちょっと独断的に書くぞ。いまからここに書くことは、「アダルト~」「アルバム~」「エアプレイ~」のどれで認識しても共通の要点だと思っていいよ!(と言いながら、紙ナプキンを広げてサラサラと・・・)

その1・・・泥臭さ・汗臭さ・激しさをあまり感じさせない、お洒落で耳ざわりの良いサウンド

その2・・・複雑な響きのコードや、人種色の強い音楽要素、多彩なリズムも取り入れる

その3・・・幅広い演奏に対応できるジャズ畑のミュージシャンも多く起用される

もともとロック音楽のカテゴリー(=ジャンル)において、 ”これはAORです” と明確に線引きするのは無理がある。例えば、音楽の世界的祭典「グラミー賞」にAORというカテゴリーが存在したことは、いまだかつて無いの。それと、聴き手側(=音楽ファンが)が「この人はAORの神様だ!」みたいに崇めるミュージャン本人が、「私が演っている音楽はただのロックンロールだ」と言うのを、何度も聞いたことがあるよ。

 

”おとな聴き”するAOR⁉=アダルト・オリエンテッド・ロック

B:でね、評論家の人が紹介してくれた「AORのお薦めアルバム」を検索すると、ことごとく「入手困難」「未CD化」「廃盤」とかなんですよ…あれは私への意地悪なんですかね?

e:うむ。キミの態度があまりに横柄だったから、きっとお仕置きされたんだろう。そういえば北海道のド田舎で育った私がAORなる言葉を初めて聞いたのは、中学1・2年生だった1980年ころ。時の音楽シーンを席巻したアルバムが、米国の歌手ボズ・スキャッグスの“ミドルマン”だった。これがAORの傑作として発売された時を、まさに実体験したから信用していいぞ。

Boz Scaggs / ”Middle man” 1980

e:ボズさんはシンガー兼ギタリストで、キャリアをスタートした時は「白人ブルースマン」として売り出したの。70年中期からはソウル音楽の色合いが濃いアルバムを作るようになり、このミドルマンは彼のキャリアの頂点といえる。”You can have me anytime”という曲で聴けるカルロス・サンタナのギターソロは、彼の数えきれない客演(招かれて演奏すること)の中でベストテイクだと思う。

B:へー。ところでこのアルバムカバー、なかなかエッチなデザインでまさに「アダルト」ですね。

 

牧師さんの置き土産がAORだった⁉=アルバム・オリエンテッド・ロック

e:そう言われれば、確かにそうだな・・・あ!ひとつ思い出したよ!私が生まれ育った田舎町の教会にアメリカ人の牧師さんが転勤してきてね。「無料英会話教室」のお茶の時間に、これを聞かせてくれたんだよ。米国のトミー・クームズという歌手の“ラブ・イズ・ザ・キー”というレコード。

Tommy Coomes / “Love is the key” 1981
現在の同アルバムのアートワーク

その人が日本を離れる時にこのレコードを貰って以来ずーっと聴き続けていたんだけど、これがなんと2001年に日本でCD化されたんだ。「AORの名盤」と本で紹介されていたのを読んで、とても驚いたよ。 アルバム全編でキリストのことを歌っているから分類は「ゴスペル音楽」なんだろうけど、サウンドは典型的なAORだ。

B:ところでさっき、「アルバム・オリエンテッド~」とか言ってませんでした!?

e:そうそう。一枚の音楽アルバムを、最初から最後までぜーんぶ聴いて良さが伝わるように意図されているからそう呼ぶんだよ。かつて音楽は、音ではなく紙に印刷した「楽譜」で一曲ずつ売られていたの。レコードが発明されると、主役の1曲をA面に、その裏(B面)に脇役の1曲を入れた「シングルレコード」として売られるようになった。いまはダウンロードやストリーミングで好きな1曲だけ買えるでしょ?シングルレコードっていうのは、嫌でもB面にもう一曲付いてくる。それが主役のA面よりもカッコ良かったりすると、すごく得した気分になるんだよ。

B:レコードやCDでいう「アルバム」って、写真のアルバムと関係あるんですかね!?

e:あるある!レコードが78回転だったころ、数枚をまとめて背表紙がある紙製のフォルダに収めて販売したのが、アルバムの始まりだったの。

 

あなた好みの周波数でAOR⁉ =エアプレイ・オリエンテッド・ロック

B:へー! じゃあ最後に、「エアプレイ・オリエンテッド・ロック」はどういう意味なんですか?米国ではこれもAORなんですよね?

e:一言でいうと「ラジオ放送に向いているロック」。ラジオを聴く時ってだれでも無防備だから、耳触りがサラッとしたお洒落なサウンドが好まれる傾向にある。言葉は悪いけど「聴き流しし易いロック」と捉えてくれてもいいよ。ただ、「聴きやすさ」と「作品の質」はまったく別の話しだからね。あちこちのラジオ局・ラジオ番組で頻繁にかかることが、そのレコードにとって最大のプロモーション=販促活動になったんだよ。’82年に発売されたドナルド・フェイゲンのアルバム「ナイトフライ」は、ロック史の中で「泣く子も黙る、No.1 アダルト・オリエンテッド・アルバム」と言われている。でもこのレコードが発売された当時は、誰もこれを「AOR」とは呼んでいなかったよ。ほれ、アルバムカバーを見てごらん。フェイゲン氏本人が、ラジオ局のDJに扮しているでしょ?これって、エアプレイ・オリエンテッドであることを演出した「販売戦略」だったのかも知れないね。これでAORの解釈を「みっつ」説明したけど、呼び方が違うだけで指している音楽はまったく同じだよ。どう? 少しは見えたかな?

Donald Fagen/”The Nightfly” 1982

B:見えた見えた!じゃあ最後にもう一つ。AORの「R」はロックですけど、これがジャズだとAOJになるんですか?

e:おー、AOJとはステキな発想だなー。今はエアプレイ・オリエンテッドなジャズのことを“スムース・ジャズ”と呼んでいるよ。もしオススメを一枚!と言われれば、アルトサックス奏者デビッド・サンボーンの1992年のアルバム“アップ・フロント”をかけるね。

David Sanborn / “upfront” 1992

e:でも、この大傑作をスムースに聴き流すのは、逆に難しいかもしれないよ。ベーシストのマーカス・ミラーがプロデュース/作曲/演奏と全面協力していて、スティーブ・ジョーダンの素晴らしいドラムス全曲で堪能できる。このアルバムのサンボーン氏は、まるで歌手が唄っているかのよう吹いている。アルトサックスであることを忘れてしまうくらいだよ。

 

CITY POPって、なあに⁉

B:ところで、日本のミュージシャンが作ったAORの「名盤」的な作品で、オススメってすぐ出たりします?

e:そうだなぁ……その前にひとつ、日本のミュージシャンが作ったAOR作品のことを、いつからか「CITY POP/シティーポップ」と呼ぶようになった。呼び方ばかり増えて、指しているアルバムは一緒なんだから、面倒だよな? じゃあ、私が高校生だった時の作品に的を絞ってみるよ。例えば松任谷由美(ユーミン)さん82年のアルバム「パール・ピアス」は、松任谷正隆(ユーミンの旦那)さんの編曲がユーミンの詩・曲を見事なAORに昇華させた傑作だと思う。それと南佳孝(みなみよしたか)さんの「セブンス・アベニュー・サウス」というアルバム。米国指折りのミュージシャンを集めて、82年にNYで録音した日本人AORの大傑作だと思う。

 

 

easymanの音楽食堂“おいしい音楽、あります!”次回をお楽しみに。

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