築100年超の古民家を改築した工房
革の選定、裁断からデザイン、製造まで、職人の技を余すとこなく詰め込んだ一生モノのシザーケースが、じわじわと美容師の間で話題になっている。
そんな噂の源を訪ね、BOB編集部が向かったのは大阪。
日本のものづくりの伝統を受け継ぎ、新たな挑戦を続ける革・布製品メーカー、wajiの工房へおじゃましました。
wajiの工房兼ギャラリーの外観。周囲にも歴史ある古民家が立ち並ぶ。
本当にフィットするシザーケース
カン、カン、カン。
築百年超の古民家を改築した工房には、職人によるものづくりの音が鳴り響く。シザーケースやカバン、エプロンなど革・布製品を製造販売するwajiは、昔ながらの建物が軒を連ねる大阪府の昭和町に工房を構える。
今、職人によるものづくりの技術が詰め込まれたwajiの製品は、美容師の中で知る人ぞ知る存在として話題になっている。
素材の選定やデザインも手掛ける菅野裕樹社長に、ブランド立ち上げのきっかけや製品のこだわりを聞いてみた。
(株)waji代表の菅野裕樹さん
「僕自身少し変わった経歴で。大学時代は各国の民族文化に興味があって、民俗学を研究していていました。社会人になってからは民芸品の輸入販売や生活雑貨のバイヤーとして、世界中のものづくりの現場に携わりました。
その経験のなかで、やはり日本の職人の技術はすごいんじゃないかと感じるようになって。その後老舗のカバンメーカーで4年間修行を積んで、ブランド立ち上げに至りました。
実は、wajiの初めての商品はシザーケース。いつも担当してもらっていた美容師さんに、『こんなシザーケースつくれないかな』と相談されたのがきっかけです。
試作品をつくっては意見を聞く、そんな試行錯誤を2年間繰り返してやっと形になりました。プロが仕事道具として使うものだから、デザイン性だけではだめ。使い心地を追求しました」
wajiのシザーケースの特徴は、セミカスタムオーダー可能なこと。自分だけのシザーケースが手に入るのだ。
「おしゃれでこだわりが強い美容師さんは、このパーツの色はこうしたい、とかシザーポケットは3丁じゃなくて4丁分欲しい、とか1人ひとり要望が違います。
それに応えるため、パーツを自由に組み合わせられるようにしました。その組み合わせは数十万通り。大量生産じゃないからできることかなと思います。パーツが分解ができるので、掃除もしやすいんですよ」
wajiのシザーケースの中で一番人気の豆型ボディ。パーツは分解・カスタム可能
カバンのつくり方を応用した製造工程
1つの製品にはどのような工程があるのだろうか。
「うちでは皮革をタンニンという成分でなめす、ヌメ革づくりから行います。
カバンメーカーで培った知識を活かし、牛の種類、産地、加工の仕方まで全て自社で決めています。素材にこだわっているから、美しく経年変化するんです。」
牛半頭分の革を染色・加工したもの。部位によって材質が変わるので、使うパーツごとに適した部位を選んで型抜きする。wajiでは食肉加工過程の副産物の革だけを使用している。
「また、シザーケースもエプロンも、高級なカバンのつくり方を応用しています。
フチをなめらかに磨いたり、圧がかかりやすい部分は内部に芯を貼ったり、革を二重にしたり。ハサミを取り出すときに革の繊維が付着しないように、毛羽立ちを抑えたり。こだわりを挙げたらキリがないですが、当たり前のこととしてやっています。
安くはないですが、Made in Japanのプライドにかけて、使った人をがっかりさせない自信があります」
こうしてできたシザーケースは、長く使えるどころか年を経るごとに美しくなってゆく。売って終わり、ではなく、何年も先を見据えるのが日本のものづくりなのだという。
大きな革から型抜きされたパーツ。これらを組み合わせて製品をつくる。
糸を留めたあと火であぶって押さえることで、飛び出た糸がなくなり、縫い目も締まる。
後編ではさらにwajiのものづくりに迫ります。5月1日(金)配信予定。お楽しみに!
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こちらの記事は、5月1日発行の月刊BOB6月号の記事を一部改変の上転載したものです。
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