続けてきたから出会えた“顔”
「あの女性はきっと、この街で自分らしく生活していそう」
「この子はきっと、いつも教室で冗談ばかり言って周りを笑わせてる(笑)」
写真を眺めているうちに、被写体のキャラクターが浮かび上がってくるような写真展を訪れた。
普段サロンに来てくれているお客さまを、
美容室で撮る。美容師が撮る。
ファインダー越しに被写体を捉える目は、
その日の気分をキャッチしてフィット感を探す、美容師の目と似ている。
森 福充氏が代々木八幡と代々木上原を結ぶ地蔵通りでMuNiをスタートして、3年が経過した。
スタイリストの採用はせず、ゼロから人を育て、自分が師から教わった「イズム」をMuNiとして継承。伝播しながらサロンを切り盛りしている。
現在はアシスタントが3名。スタイリストは森氏のみ。
それまで働いていた渋谷〜原宿〜表参道から離れて、ゼロからのスタートだった。
森:集客のために始めたわけでも、周囲がやってないことをやらなきゃと差別化目的でやったわけでもないんです。自分たちが大事だと思っていることをシンプルに続ける。コツコツ続けて、積み重なったらきっと何かが起きるはず。そう信じてやってきただけなんですよね。
ポートレートをインスタグラムに上げ続けて1年半、同じ代々木上原の街でカフェを営むお客さまに「うちの店で写真展やったら?」と声をかけられた。
森:MuNiが3年を迎えた節目として、ちょうどいいタイミングでアウトプットをする機会となりました。最初は、写真展になるなんてまったく考えていなくて、単純にお客さまを写真に残してあげたいと思って、髪を切って写真を撮る。これをコツコツ積み重ねていっただけなんですよね。お客さまとMuNiの記憶と記録を刻むことがしたくて続けてきました。
他サロンがあんなことしているから、うちはコレやろう。
そんな風に周囲を見て差別化のためのプロモーションを決めがちな世の中だが、森さんの考え方はいたってシンプル。
ただ、ただ「自分は今、何をしたいか」。
「MuNiが大事にしたいこと」この表現を続けていくことが、唯一無二の存在になるのだ。
ファインダー越しに見える人となり。笑顔となり。
森:いつも来てくれるお客さまたちの瞬間の表情を撮るポートレートは撮っていてすごくおもしろいですよ。笑っている顔も、すました顔も。変な顔もいいよね。写真を通して見える、人となりがある。続けていくうちに、リズムとノリが生まれてくる。そこから、ふと言葉が降ってきて。「人となり 髪」、あ、いいじゃん!って(笑)。キャッチが降ってきたことで、さらに髪にも写真にもその言葉(想い)が浸透して、クリエイティブが深化していくことがとても楽しいですね。
人となり=性質。その人が生まれもったもの。
インスタントな発信はしない主義。スマホでは撮影せず、レンジファインダーで撮る。
1枚1枚写真にこだわって、丁寧に仕上げていく。
言葉にこだわって、1人ひとりに「その人なり」のテーマをつけていく。
MuNiのインスタグラムには、森さんがお客さまと対話しながら仕上げたポートレートが並んでいる。
美容師が撮った写真だから“人”に目がいく
森:以前の僕は、髪にフォーカスした写真ばかり撮っていたんですよね。”カッコイイ”にとことんこだわって、モデルに普段しないような表情をさせて。髪の毛を見せるための写真だった。それも美容師として必要なことだけど、僕が今目指しているのは、内側から溢れ出るような「人となり」が見える写真。今にも笑い出しそうな、息づかいさえ聞こえてきそうな写真です。
髪に振れ、今の気分をキャッチしてヘアスタイルを提案する。
自分を知っていてくれる美容師が撮影するから、ふと出てしまう素の表情がある。
森:展示写真の中には10〜20年通っているお客さまもいるけれど、Muniを通して出会った人たちが多いです。MuNiに通ってくれているこの街に住んでいる人や働いている人たち。インスタの画像を見せて、「この髪型にしてほしい」というお客さまはほとんどいなくて、今の気分を聞いて、あとは心と街と生活にフィットするヘアスタイルを提案しています。
森:続けてきたことで、僕がやりたいと思っていることを見てくれている人たちが広がり、続けたことで出会いのベースができて、「人となり」のテーマも明確になってきました。この写真を撮るという行為は、ハサミを動かすのと同じくらい僕には大事なこと。これからもこの街の人を撮り続けます。次はなにやろうかな。アウトプットの仕方を変えて、MuNiらしい表現を続けていきたいですね。
Profile
森 福充(MuNi)/1978年生まれ。福島県出身。真野美容専門学校卒業後、1998年HEAVENSに入社し小松 敦氏に師事。2018年に東京・代々木八幡と代々木上原を結ぶ地蔵通りにMuNiをオープン。MuNiのディレクターを務める。
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