美容師・小熊さんが提供しているのは、いわゆる「よくあるウェディング写真」に満足できない、個性的でオシャレな花婿・花嫁に対する新しい婚礼撮影=“アウトドアウエディング”だ。撮影プランには、ヘアメイク、写真撮影(ロケーション)、動画撮影が含まれており、開始後1年ですでに10組以上のカップルからの依頼を手掛けたという。
それら作品の撮影場所の斬新さと完成度にくわえ、ヘアメイクと写真撮影、動画撮影と編集を一手に引き受けるタイムパフォーマンス力の高さ、美容師だからこそできる新しい仕事としての可能性、何よりも少し話しただけでわかる小熊さんのクセの強さが気になり、取材を申し込んだのだった。
美容師1年目から、独立&円満退社を視野に
「アシスタント1年目の時から、27歳、28歳くらいには独立して自分のお店を持つことを決めていました」と話すのは、30歳で代々木上原にサロン『髪と自然』をオープンした小熊 開さん。1店舗目で専属アシスタントをしていたスタイリストの独立とともに、2店舗目へ。その2店舗目へうつる際、オーナーとなるそのスタイリストに「僕はあと数年で独立するつもりでいます。それでもいいですか?」と伝えていたというから、読者の皆さんにもちょっとした“クセの強さ”を感じてもらえるのではないだろうか。
「オーナーからはオープン後5年はサロンにいてほしいと当初から話をされていました。辞める2年前からは、僕は集客サイトにもクーポンを出さなくていいですと伝えて、できる限りお店の負担が少ないようにしていましたね。5年過ぎたところで、独立しますと改めて伝えました。円満独立ができたのは、柔軟な姿勢と理解を示してくれたオーナーのおかげです」
独立したかったのは、自分が好きな世界観「ナチュラルクラシック」を徹底して表現できる場所と環境、ブランドが欲しかったからだ。勤めている以上、そのブランドに沿ったヘアデザイン、ヘアメイクをするべきだと考えていた小熊さんらしい理由だろう。もちろん両親ともに美容師という環境で育ち、自分自身で美容室を経営したいという幼少からの夢も背中を押していた。
すべては、カットモデルハントから始まった
オシャレな花嫁だったら誰もが気になる『Maison SUZU』というドレスブランド。何を隠そう、小熊さんがアシスタント時代にモデルハントしたのは、このブランドを立ち上げる前のデザイナーさん、その人だった。
モデルハントから1年後、「ドレスブランドを立ち上げるので、ヘア&メイクに協力してもらえないか」とデザイナーさんから相談があった際、小熊さんはまだアシスタント。にも関わらず、即答で「いいですよ」と返事をしたそう。何度か撮影に立ち会いながら、ヘアメイクだけじゃなく自分でも撮ってみたい、ウエディング業界の中にも自分が好きな「ナチュラルクラシック」の世界観が存在し、需要があることに気づいた。
さらに、趣味であった登山と釣りで訪れる大自然の風景を見るたびに、ここでウエディングの撮影を提供するプランがあったら……と妄想をふくらませていた。これが“アウトドア・ウエディング”発想のはじまりだ。
「勉強はしない、やりながら覚える」
登山と釣りが趣味の小熊さんは、元々写真も動画も自身の記録用に撮りため、編集していた。独立する少し前からは、独立後美容師として仕事をしながら「アウトドア・ウエディング」=おしゃれで個性的な花婿・花嫁向けの撮影プランを自分1人で提供したいと思っていたため、本気でカメラを使い始めた。そして、つい先日『Maison SUZU』の新しいドレスコレクションを撮影したというから驚きだ。
「自分のカメラやムービー技術は、まだまだ満足できていないです。もちろんお金をもらって仕事をする以上、すでにプロではあるのですが、よりセンスや技術を高めたいですね」
動画の編集も勉強するのではなく、動画編集ソフト「Final Cut Pro」を使いながら覚えた。“アウトドア・ウエディング”はロケーション撮影が中心だが、ロケハンは趣味の登山や釣りで過去訪れた場所を、ここでウエディングフォトも撮ってみたいと前々からストックしていた。さらに、Google mapを使いこなしロケハンをすることで、見た人が引き込まれる大自然とウェディングのコラボレーションが実現しているというわけだ。
「風景写真の延長に人がいる感覚での撮影を大切にしています。自分の写真をみて反省して、次回何を改善していくか考える。その繰り返しでよりうまくなっていきたいと思っています。あ、ちゃんと撮影許可もとっていますよ。商業撮影なんで!(笑)」
同じくロケ撮影の撮影許可取りに苦労した経験がある担当編集は、クセの強さに垣間見える、小熊さんの真面目さにも驚かされるのであった。
外部に厳しいのがウエディング業界
結婚式を実際に挙げると気づくのが、カメラマンやヘアメイクさん、ドレスまでも、式場が提携している人・ブランド以外でお願いしようとすると、それぞれに別途3万円以上~の追加料金がかかるということだ。私もこのハードルが高いと感じ、結局式場のスタッフ、提携のドレスショップに妥協した花嫁の1人だ。
この1年間、小熊さんはロケーション撮影プランである“アウトドア・ウエディング”以外に、式場であげる結婚式にも外部カメラマンとしても参加してきた。小熊さんのインスタを見て、新郎・新婦が写真・動画を撮ってほしいと依頼があったからだ。
「ウエディングの仕事は、相当な気合いがないとできないですね。特に式場での撮影は専属のカメラマンがいて、僕は外部のカメラマンということになるので、撮影場所も譲ってもらえないんですよ。そういう時は『この人ヤバイな』って思わせるのが重要だと思っていて、アシスタント時代の経験が役にたっています(笑)」
「アシスタント時代から、先輩に『こいつヤバいな』と思わせるよう意識していました。例えば、練習を誰よりもめちゃくちゃする。おかしいと思ったことは誰であろうと意見する。ただし、しっかりと結果は出すこと。結婚式場に外部カメラマンとして入る場合も、どのカメラマンよりも動いていい写真を撮るんだ、という迫力を伝える行動を心掛けています」
その経験があったからこそ、集合写真に代表されるような「よくある結婚式の写真」は自分が撮影しなくてもいいと考えるようになった。
もっと自分がやりたい、つくりたい世界観を徹底して表現できる“アウトドア・ウエディング”への軸が固まっていった。
美容師もウエディングの仕事も楽しいからやる!
喜んでもらえる姿を見れる、その姿から幸せとやりがいをもらうことができる。小熊さんにとって美容師の仕事も、ウェディング撮影の仕事も、続ける理由はまったく同じだ。
「今後は、美容師の仕事を半分、ウエディングの仕事を半分くらいにできるようにしたいと思っています。どちらも同じくらい好きだし、楽しいですね。さらに僕にはもう1つ目標があって、あと4年後には年収を2000万円にしたいんです。そのためにも、ウエディングの仕事はより高めていきたいと思っています」
実際に、オープンから2年弱(2020年12月で2年)の今、目標である1000万円は達成したという。
「需要が高まれば、ウェディングの仕事の設定料金も今よりはあげていきたいですし、もっともっと自分のこだわりも表現できるようになって、そこに合ったお客さまに選んでもらえるようになりたい。他の人と同じことをやらずに、自分らしく、唯一無二の存在であり続けたいですね」
最後に、お店の店舗展開は考えていないんですか? と質問した私に対して。
「その質問に対しての答えは、ちょうど最近出たんですが。店舗を展開するというのは、自分に合わないなと思っていて。どこかでこだわりを捨てなきゃいけないところも出てくるのかなと思うので。特にスタッフを雇うと全部自分の思い通りにはもちろんいかないじゃないですか。だけど、自分の好きなものへのこだわりは絶対捨てられないんです。クセが強くてすみません(笑)」
小熊 開
おぐまかい/1988年9月21日生まれ、静岡県出身。山野美容専門学校卒業後、都内2店舗を経て、2018年12月代々木上原にマンツーマンサロン髪と自然をオープン。現在は美容師業を軸に、月に1~2回ほどロケーションフォトウェディングプラン“アウトドア・ウエディング”のディレクション・ヘアメイク・撮影に出かける2足の草鞋美容師。
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