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クレーム・コンサルタント 谷 厚志 氏が解決! 美容室のリアルクレーム・対応法

クレーム対応の明確なルールづくりができている美容室は、実は少ないのではないでしょうか。

幅広い年齢層、様々なお客さまが来店する業種であり、モノではなくサービス(技術)を中心に売るという特徴。また「お直し無料サービス」を実施しているサロンも多いため、クレームが生じやすい状況があるにも関わらず、です。

今回、「怒りを笑いに変えるクレーム・コンサルタント」 谷 厚志さんにご協力をいただき、読者の美容師さんから寄せられた「対応にこまったクレーム」の正しい解決方法を教えてもらいました。

谷さんは言います。「クレームは、マーケティングと同じだ」と。そして「クレーム対応は、準備をしておけば決して難しいものではない」と。

重い話が多いですからと、ポップに見えるピンクのシャツを50枚以上持ち(!)、誰もが思わず「元芸人さんですか?」と聞いてしまうだろうキャラクターの持ち主、クレーム・コンサルタントの谷さんを紹介します。

 

谷 厚志さん

一般社団法人日本クレーム対応協会の代表理事。日本メンタルヘルス協会基礎心理カウンセラー。学生時代は関西を拠点にタレントとして活動。しかし、あるパーティーの司会でスポンサー名を間違えるという大失態を犯し、芸能界を引退。その後、サラリーマンに転身し、企業のコールセンター、お客さま相談室で責任者として2,000件以上のクレーム対応に従事。一時はクレームによるストレスで出社拒否状態になりながらも「クレーム客をお得意様に変える対話術」を確立。現在は独立し、クレームで困っている企業などのために全国でコンサルティング活動を展開、具体的なクレーム対応法をアドバイスしている。年間200本以上の講演・研修にも登壇。著書に『「怒るお客様」こそ、神様です!』(徳間書店)、『心をつかむ! 誰からも好かれる話し方』(学研パブリッシング)、『超一流のクレーム対応」(日本実業出版社)がある。

※この記事は、髪書房WEBZINEにて2019年3月に取材・掲載したものです。

目次

美容業界はクレームが多い!? のウソ・ホント

 

編集「“美容業界のクレームの特徴”はありますか」

「私自身、ヘアサロンからも個別に相談を受けています。その内容も含めて、美容業界は『サイレントクレーマー』の方がとても多いと感じています。髪型の仕上がりのことは直接お店に言う方もいらっしゃると思うのですが、例えばアシスタントさんのシャンプーの仕方やタオルの臭い、電話の取り方など細かい部分はどうしても言いづらいと考える方が多いんです」

 

編集「『サイレントクレーマー』は、その後どういう行動を取る方が多いんでしょうか」

「またこのお店に来たいし、細かいと思われたら嫌だから言わずにずっと我慢する。または、何も言わずに他のお店に行きますね」

 

編集「クレームにもサイレントクレームにも、気を付けないといけないということですね」

「怖がる必要も、構える必要もありません。今回読者の方からお寄せいただいた4つの質問のうち、2つはお店に新しい気づきを与えてくれるものです。スナックを思い浮かべてみてください。どこのスナックも商品で差別化はできていないんです、自分のことを分かってくれる“よき理解者”であるママの元にお客さまは集まってきているんですよね。クレームを理解しお客さまの“よき理解者”になることができれば、必ずお客さまは常連になり、サロンの発展につながります。また、残り2つの悪質クレームも十分起こり得ることなのに多くのサロンで対応準備ができておらず、スタッフのことを店側が守れていないと感じています。ぜひご参考いただけると幸いです」

 

編集「クレームをキッカケに“よき理解者”である美容師を目指すべきだと」

「私はもう何年も恵比寿にあるBelead EBISUの関田大輔さんという方に髪を切ってもらっています。彼は、私の“最高の理解者”なんです、素人なんで技術のことは正直よくわからないんですが、私の仕事も性格も分かった上でこの髪型を提案してくれるんですね。だから私も思ったことは言えますし、他のお店に行こうと思ったこともないですよ。


対応に困ったクレーム①「シャンプークロスの臭いが気になる」

読者からの相談:シャンプークロスはローテーションで使用し、天日干しをしている。それでも臭いに敏感な方からは指摘がある。その際、何とお答えするのが適切なんでしょうか?

クレーム①の対応方法:「ご不便をおかけして申し訳ございません」と限定付き謝罪 ※し、新しい未使用のクロスに交換する。

× クレーム①のNG対応方法 ×

「ローテーションして天日干しにしているんですが……」

「他のお客さまに言われたことはないんですけどね」

【谷 ’s COMMENTS】

まず最初に、クレームはお客さまからのアドバイスです。1人のクレームの後ろには、同じことを思うお客さまがたくさんいた、ということを忘れないでください。

問題の解決<気持ちを理解して欲しい

「お客さまが本当に求めていることは問題の解決よりも、この気持ちを理解してほしいということ。シャンプークロスを変えて欲しいという気持ちはもちろんありますが、美容師さん側が最高の理解者になりお客さまの気持ちに寄り添えることが正しいゴールです。

新規のお客様はクレームを言わないんです、また次も使いたいから。クレームを言うのはリピーターの方が圧倒的に多いんですよ。言い換えると、クレームが増えるとリピーター=ファン予備軍が多いということ。あとちょっとで“繁盛店”になるお店は「クレームが最近増えていて」とおっしゃることが多いですね」

対立を対話にすること

「『ローテーションで天日干しにしています』と主張したところで、お客さまは嫌な気持ちになってしまいます。まずは、お客さまの気持ちに寄り添いお詫びの言葉を投げかけましょう。この時、限定付き謝罪を使用し、お客さまの怒りの気持ちやガッカリされた悲しい気持ちに対してのみ(部分的に)謝りましょう。お客さまの感情を第一に考えた行為です」

クレームは必ず起きるもの、だから準備すべき

「臭いに敏感な方の対応は、どの業界でもあります。ホテルや旅館業でも、部屋を満室にはせず部屋の臭いを不快に思われたお客さま用に予備を用意し、交換対応しているところがファンをつくっています。この場合なら、新品のクロスを予備で用意しておくことをおすすめします。ちゃんと対応してくれたという事実が、お客さまをファンに変えます」

 

※限定付き謝罪……クレーム対応の初期段階で、クレームの原因が把握できていない状況時に使用する。反対語(対義語)は「全面謝罪」。

例)常連のお客さまから「店舗の従業員の対応が悪かった」とご指摘

→「いつもお越しいただいておりますのに、私どもの対応にご満足いただけない点があったようで、申し訳ございません」と、まずは怒りの気持ち、ガッカリした気持ちにのみ謝る。


対応に困ったクレーム②「会社の上司から『ヘアカラーが明るすぎる』と指摘されたので無料で)お直しをして欲しい」

読者からの相談:しっかりとしたカウンセリングを実施し(ヘアカタログでヘアカラーの仕上がりを共有)、希望通りだとお帰りいただいた2日後。お客さまより「会社の上司からヘアカラーが明るいと指摘されてしまったので、お直ししてほしい」と連絡を頂きました。お客さまがおっしゃった通りにならなかった場合、無料で対応するのはもちろんのこと。けれど、この場合は「再要望」として料金をいただきたかったのですが、美容室側から上手く言い出せませんでした。どうお伝えすれば「お直しの境界線」がお客さまにも伝わるのでしょうか。

クレーム②の対応方法「お客さまのご事情はよく理解しました」としっかり共感した上で「ただ、今回のご要望に関しては、一度お客さまから希望通りの仕上がりとしてご了承をいただきましたので『再要望』として料金がかかります。いかがいたしますか?」と理由を明確に伝え、お客さまに決めていただく。

× クレーム②のNG対応方法 ×

すぐに「それは、料金がかかってしまいます」と伝える

【谷  ’s COMMENTS】

このお客さまは「悪質クレーマー」ではありません。「お直しの境界線」に正解はないので、お店として「どうであれば無料でやり直し」「ここからは再要望で料金発生」と事前に決めておくことをおすすめします。

上司からの指摘は、店側の責任ではない

「カウンセリングをきちんとして希望通りでお帰りいただいたのであれば、再要望として料金をいただかないといけません。なぜなら、上司からの指摘は店側の責任ではないからです。ただしお伝えの仕方を間違うと、二次クレーム(あなたの言い方が気に入らない)となるので注意しましょう」

お客さまによって対応を変えることが一番危険

「『無料お直し』と『再要望のため料金が発生』の境界線に正解はありません。なので、お店の中で境界線をきちんとつくっておくことが必要です。そうしないと、意外なところで口コミが広がり、お店の評判を落としてしまうということが他業界でもよくあります。Instagramで#クレーム を検索すると、たくさん出てきますので参考にしてください」


対応に困ったクレーム③「黒染めをしてもらったけど、黒くない。返金して欲しい!」

読者からの相談:真っ黒に黒染めをして、その日は何もおっしゃらずにお帰りになったお客さま。美容師目線だと、明らかに真っ黒に仕上がっているのに、納得がいかなかったようで3回お直し(すべて無料)にいらっしゃった。にも関わらず「黒くない、返金して欲しい」と1回目の料金の返金を求められた(この際何度かお電話でお話しをして返金はお断りしたが、3日間毎日電話がかかってきた)。どのように対応すべきだったのでしょうか。

クレーム③の対応方法イメージの違いで仮に1回目のお直しは無料にしたとしても「2回目以降は料金がかかります、それでもよろしければ対応いたします」と言い切る。それでも返金要望、無料お直しを要望される場合は「そうお考えであるお気持ちはよく理解しました。残念ながらお客さまのご要望に添えることはできません」と丁寧にお断り、対応を打ち切る。

× クレーム③のNG対応方法 ×

1度目の無料お直しの際に、2回目以降は料金がかかることを伝えていない。

【谷  ’s COMMENTS】

この方がリピーターか新規のお客さまかで判断は変わりますが「ストレス発散型」のクレーマーの可能性が高いです。顧客という立場を最大限に利用して無理難題を押し付け、相手が困っている姿を見てストレスを解消していると想定されます。このケースは、明らかな業務妨害と考えて、毅然とした態度でしっかりお断りしてください。

商売は対等の関係、対応を打ち切ることを躊躇しない!

「こちらのサービスに満足をいただけないのなら、他のお店に行ってもらいましょう。対応を打ち切ることを躊躇されるヘアサロン、オーナー様が多いですが、このような悪質クレーマーのクレーム対応に時間を割くなら、自分たちにとって大切なスタッフを守ること、自分たちのとってよいお客さまとの関係強化を意識してください」

 お店の判断基準を決めておく

「1回目は無料でお直し、2回目以降は料金をいただくことをお伝えし、お客さまの判断に任せる。など、どこまで対応するか、お店の判断基準の設定は絶対に必要です。ここには、経営者の覚悟も実は必要で、これができていないとスタッフが辞めます。なぜなら、すべてのお客さまに合わせて対応するお店側の姿勢についていけないと普通は考えるからです」

 クレームが良質なのか、悪質なのか見極める

「私が定義するクレームの善悪を見極める基準の1つとして『ルールを守らないお客さま』は悪質なクレーマーだと判断して、受け入れないようにしています。次もまたこのお店にお願いしたいから、クレームを言う。アドバイス、分かってほしいという気持ちがあってこそです。悪質のクレーマーは、クレームを言うことが目的になっているんですね」


対応に困ったクレーム④「こんな色が希望ではなかった、返金して欲しい」

読者からの相談;50代、30代の母娘で来店されたお客さま。カット、カラーに満足してお帰りになったが、数時間後「こんな色が希望ではなかった」と電話が入り、返金対応せざるを得ない状況に。最初から返金狙いだったのでは? と思ってしまったが、本当にそうだったのか。そうだとすれば、どう対応すればよかったのか。 

クレーム④の対応方法「ご返金のご要望に添えることはできませんが、お越しいただけるのであれば、できる限りのお直しは対応させていただきます」それでも、とにかく返金ということであれば「残念ながらお客さまのご要望に添えることはできません」

× クレーム④のNG対応方法 ×

「そこまでおっしゃられるのであれば、今回のみ対応させていただきます」

 【谷  ’s COMMENTS】

実は、過去に同じケースの相談を受けたことがあります。明らかに返金狙いの悪質クレーマーの判断でいいと思いますが、対応方法としてお店として「できること」「できないこと」をお伝えし、良質か悪質か見極めることができます。

できないこと→できることの順に伝える

「(お電話での)返金対応はできない→お越しいただければ、一度ならお直しをさせていただきます。できることとできないことは、つねにセットで伝えましょう。お話しする順番は、できないこと→できることの順番が適切です。それでも『とにかく返金して欲しい』と言われた場合は、金銭要求の悪説クレーマーと判断して対応を打ち切りましょう。今回のケースの場合、最後の手段として『警察に言います』と伝えてもかまいません。警察が悪質クレーマーの顧客情報を知っているケースもあります」

お店の軸と基準を持つことで、従業員を守る

「全力でサービスをすることは、もちろん素晴らしいことです。ただし、お店としてどこまで対応するかという基準を持っていないと、スタッフの離職につながってしまいます。先ほども申し上げましたが、対応を打ち切るということを経営者が躊躇しないことが大切です」


一流のクレーム対応準備が、スタッフを守る

 

編集「4つの質問にお答えいただき、ありがとうございました!」

「ヘアサロンは、お客さまに対して返金対応をしすぎているのかもしれませんね。昨年、飲食店のドタキャンが問題になりましたが、それでも飲食店側がお客さまに料理代を請求しなかったのと同じで、あまりいい風潮とは思えません。価値に見合ったサービスを提供したのなら、何度も無料でのやり直し、返金に応じる必要はありません

 

編集「お店としての返金の判断基準を決めて共有しておくということですね」

「自分たちが大切にしたいお客さまとだけ付き合う気持ちでOKです! 目先の売り上げを追求するあまり、スタッフに負担を背負わせてしまっているサロンも多いのではないでしょうか」

 

編集「スタッフの離職の原因の1つかもしれませんね」

「離職率が高いヘアサロンの傾向として、オーナーや店長がスタッフよりもお客さまと売り上げを見すぎている傾向があります。スタッフがストレスなく仕事をするためにも、クレーム対応の明確なルールづくり、研修の開催をして準備することをおすすめしたいです

 

編集「谷さん、今日はありがとうございました!」

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