ダイエットやデトックス目的でファスティングを美容習慣に採り入れている人は多いでしょう。ファスティングと聞くと、美容意識が高い人がやっている健康法といったおしゃれな響きです。でも、ファスティングの和訳は「断食」。本来は同じ意味なのに断食には「苦しさや辛さ」を連想しますよね? さしずめ前者が健康療法なら、後者は精神修行。そんな鍛錬を長年行い、心を鍛えてサロンを成長させている人たちに密着しました。
口にできるのは水かお茶だけ
経営コンサルタント兼作家として活躍している伊藤豊さん(ラポットカンパニー)が断食を始めたのは22年前。37歳のとき脊髄腫瘍を患い、脳外科病棟に4カ月入院して薬漬けになった身体を解毒しようと5日間断食をしたのが最初です。以来、「運命を切り開くなら奇数が良い」と人づてに聞き、7日、11日、21日……と奇数にこだわり毎年、断食を継続しています。これまでに21日以上の断食は4回経験し、最長は27日とのこと。今のルーティンは夏と冬の年2回、3日断食を行いながら長期断食もしています。
伊藤さんは断食をする際、自身が代表を務める読書とボランティア団体・ウッディチキンのメンバーをはじめ、参加を希望する人は仲間として迎え入れます。このたび7月23日(金)~26日(日)にかけて高知県で行われた夏断食には、全国各地から14名のサロン&ディーラー経営者が集いました。過去に何度も参加しているメンバーが大半ですが、5名は断食初体験です(参加は経営者に限定するものではありません)。
伊藤流・断食には厳格なルールがあります。
・断食初日は午前0時をスタートとする
・口にできるのは水かお茶だけ
・食べ物の話はしない
・テレビ番組は観ない
・雑誌は読まない
・善きことのみを想う
・善き言葉をつかう
・心静かに自己を省みる
・感謝に満ちた心で過ごす
・断食最終日の午前2時をもって満願成就とし、回復食におかゆと沢庵をいただく
上記について、伊藤さんに理由を聞きました。
「僕の断食は、最近流行しているファスティングとは違います。中には酵素ドリンクを飲みながら行うファスティングもあるようですが、それだと細胞が動き出す感覚があるので、飲みません。水とお茶だけで細胞の動きをできるだけ抑えて、血流がゆっくりになるイメージを大事にしています。『静の修行』で深みを増すのが目的です」
空腹や疲れのあとにやってくるもの
日中、参加者の多くは宿泊ホテルのリビングフロアに集まっていました。あいにく3日間はほとんど雨天で、たまに晴れ間が出る梅雨明け前の不順な天気。雨音と、いきなり響きわたるセミの鳴き声をBGMに個々に想いを巡らせます。
読書をする人、経営計画をつくる人、悩みを相談する人、散歩に出かける人。上記のルールさえ守れば、断食中の行動は自己責任です。
参加者の中には、スタッフへ高知土産を購入しようと高知県産の食材を扱うショッピングセンターへ出かけた猛者もいました。カツオ、柚子、文旦……。南国の食材が放つ美味しそうな誘惑を断ち切りながら空腹に耐えます。
実は筆者も参加者と一緒に断食しながら取材をしました。その結果、気づきがありました。食事をする時間を気にしなくていいという“制約”は、1日の生活からメリハリを奪い“自由”にされること。何時に食事をして、次に何をして、と過ごしてきた無意識な日常は、食事が行動スイッチを押していたようです。
おもしろいもので、食事時間を失ってみると1日が36時間くらいに感じられるほどとてつもなく長いです。感覚的にはとっくに24時くらいのはずなのに、時計を見たらまだ16時!といった具合に、これまで有限だった1日が、断食中はまるで無限な錯覚に陥ります。今までは日常のせわしさから「やることばかり増えて、考える時間がない!」と愚痴っていた自分が愚かに見えてきます。時間はつくるもの、なのでしょうね。
よく、インプット⇔アウトプットと言います。なにがしかの知識や体験を得るには、いちどそれまでの財産を放出して自身を空にする、もしくは新たな知見を得られるスペースをこじ開けないとインプットできないという意味で使われています。
「太陽がない時には、それを創造するのが芸術家の役割である」(ロマン・ロラン/フランスの作家)
いわゆる「ノー・シンキング」の世界観を表した言葉です。
「断食とは全脳解放術です」。主催する伊藤さんのことばです。
「僕は断食のあとに本を書き始めます。だって、湯水のようにアイデアが湧き出てくるんですよ」
断食に初挑戦した渡辺高雄さん(zip/青森県)の感想
「初日は楽勝でした。でも2日目の昼頃から一気にきつくなってきました。空腹でエネルギーが枯渇していくのがわかり、体力がどんどん奪われていきました。でも、その感覚に慣れてくると、欲望から解き放たれたような不思議な気持ちになりました。初めての断食で感じたのは、次の欲望を見つけられるのが断食だ、という体験です」
昔も今も。伊藤さんの断食に参加するのは、経営者が圧倒的に多いです。経営者だから抱える葛藤や欲望をいちど捨て去るために。常連メンバーは、断食を経て未来が開けることを知っています。その証拠に山本晋爾さん(RT HAIR CREATION/高知県)、安井重満さん(NAP hair/愛知県)、浜子武史さん(Hygge/静岡県)ら常連組は、伊藤さんの断食に参加して以来ずっと会社の業績が伸びているのです。
断食こそ、タイムパフォーマンスの原点だ
このブログでお伝えしているとおり、弊社は今「タイムパフォーマンス」という新しいモノサシを業界へ提唱しています。
「タイムパフォーマンス」とは
・時短施術
・短時間で単価アップ
・時間外売上アップ
・店販売上アップ
・限られた人数で効率のよい仕事
・密にならない空間でお客さまと密な関係性を構築する
ウィズコロナ時代、働き方改革時代に、経営的には人時生産性(粗利÷総労働時間)を、スタイリストは時間生産性(技術売上÷総労働時間)を追求した結果、時間に余裕ができ趣味や特技も磨ける豊かな美容人生が待っていると仮説を立てました。
このタイムパフォーマンスを高める1つが断食なのかもしれません。
なぜ美容師になったのか。なぜ経営者になったのか、このあと何をするか。
身をもって時間の尊さを学び、脳のパフォーマンスを最大まで引き出すガマンは新しい自分を引き出してくれるカウンセラーでもあります。
さほど無理はしなくても、3日断食ならほとんどの方は満願成就できるはず。たった3日でも、敏感になっている味覚に染み入る午前2時のおかゆと沢庵は格別ですよ。
「27日断食をやった時は死にかけた」と自戒する伊藤さんの真似は禁物ですが。
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